紅の葬送曲
Ⅲ
──犯人は現場に戻ってくる。
そんなことをよく刑事ドラマや小説でみみにしたり、目にした。
実際にそんなことがあるのかと信じがたかった。
現場に戻れば、何らかの理由で自分の痕跡が残っているかもしれない。
残っていれば、自分に容疑が向けられる。
そんな危険を犯してまで現場に戻る必要があるのだろうか?
ドラマや小説の中だけだろうと思っていた。
──そう思っていたのに、私達がこれから追うであろう犯人が犯行の現場に戻り、今目の前にいる。
「飛んで火に入る夏の虫って言うが、まさにそれだな」
寿永隊長は皮肉を込めながらそう言うと、腰に着けたホルダーから拳銃を取り出した。
そして、その銃口を目の前の犯人──紅斗に向ける。
「怖いなー、一般人に拳銃を向けて良いの?」
「ほざけ。堂々と防犯カメラに自分の顔を映して殺人を犯し、現場に戻って名乗るなんて挑発じみたことを一般人がするかよ」
飄々とする紅斗に対して、寿永隊長の様子が何処か変だ。
言い表すには難しいけど、妙に殺気立っているように感じる。