元社長令嬢は御曹司の家政婦
「バカにしないでもらえる?
私が家政婦なんてやるわけないでしょう!」

「じゃあ、他に何ができるんだ?
まともに働けもしない、養ってくれる親も男もいない、友人さえもいない。プライドで食べていけるのか?」


声を荒げると、九条秋人は鉄仮面に戻り、非情な言葉をかけてくる。


「くっ......」


プライドを捨てきれずホームレスになるか、プライドを捨てて冷血男の家政婦になるか。どっちがいいんだとゆさぶりをかけてくる男に唇をかみしめる。

なんて卑劣な男!


「よく考えてみた方がいい。
君にとっても有益なはずだ。
俺の家政婦になるなら、住む場所も提供し、もちろん十分な給金も支払おう」


九条秋人は私との距離をつめ、月にこれくらいは支払おうと耳元でささやく。......。

え?そんなに?それじゃ、この会社で働いていた時よりもいいじゃない。


「それだけあれば、エステもネイルも美容院も、それから服も買える......」

「ああ、家政婦としては破格なはずだ」


お金、プライド、メリット。
様々なことを天秤にかけた結果、最終的に私の天秤はお金に傾いた。


「......分かった、引き受けるわ。
あなたの家政婦になる」

「交渉成立だな。
ちなみに俺の妻になれば、それ以上のお金が自由になる。気が変わったらいつでも言ってくれて構わない」

「誰があなたの妻になるものですか!お断りよ!」


ムッとして言い返すと、九条秋人は目元をゆるませて、私を何か微笑ましいものでも見るかのような目で見つめる。
何よ、その目は......。調子が狂うじゃない。

冷たくて、ロボットみたいで、腹だたしい男のはずなのに、その優しげな視線は何?



こうして、私は会社を解雇された翌日から、九条秋人の家政婦として住み込みで働くことになった。
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