クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
絡まって、空回って
 温かくて大きな手が私の頭を優しく撫でる。いつもなら反射的に払い除けるのに、このときはどうしたって拒むことができない。それは触れられることだけじゃない。

「優姫(ゆうき)」

 低く、熱っぽい声で確かめるように名前を呼ばれる。自分の名前を呼ばれることは滅多にないのに、彼は昔から変わらず私を名前で呼ぶ。

 自分の名前はあまり好きではないのに、彼が口にするとなんだかそこまで嫌な気はしない。ただ、彼にとっては嫌がらせのひとつなのかもしれないけど。

 明かりの消えている部屋で、窓から差し込んでくる人工的な光が彼の上半身を暗闇から浮き上がらせていた。白くてきめ細かい肌。

 ひ弱そうに思っていたのに、脱げば意外と筋肉がある。それに気づいたのはつい最近。無造作な黒髪との対比は、整った顔立ちと相まって言い知れぬ色気を孕んでいた。きっと女の私よりも彼の方がずっと“綺麗”だ。

 ぼんやりと上になっている彼を眺めていると、思わず視線が交わった。その不意打ち具合に心臓が跳ねる。

「なに? 見惚れた?」

「まさか」

 おかしそうに聞いてくる彼に私はぶっきらぼうに告げて顔を背けた。すると彼は怒るどころかくっくっと喉を鳴らして笑うので、私はつい眉をしかめる。それをなだめるかのように彼は額に口づけを落としてきた。

「なら、体に聞いてみようか。いつもみたいに素直で可愛い反応をしてくれるかもしれないし」

 なにかを抗議する間もなく、口を塞がれる。今のは嫌味だ。残念ながら私には素直さも可愛さの欠片もない。それはきっとこうして肌を重ねているときだって。
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