美意識革命
酔いにまかせて
― ― ― ― ―

 なんとか森を回避して1週間と2日が経ち、今日は待ちに待った金曜日だ。今日は酒でも飲もうという気持ちになり、由梨はスーパーに立ち寄った。

「あ、九条さん?」
「!?」

 振り返った先にはラフな格好の森がいた。1週間と2日経ってもなお、自分が発した恥ずかしすぎる言葉たちを忘れてはいない。

「も…り…さん!」
「え、なんでそんな顔?」
「いや、私前回森さんにすさまじく失礼なことを…。」
「え?失礼?ありましたか?」
「…いや、覚えてないならいいんです。すみません!」
「全部覚えてますけど、失礼だと思ったことが見当たらないだけで…。あ!もしかして最後のやつですか?」
「…蒸し返さないでください。」
「なんでです?あれ、僕嬉しかったですよ。」

 森はその言葉通りに、にこにこと微笑んでいる。由梨の方はといえば、思い出して恥ずかしさでまた顔が熱くなってきた。

「…もしかして、僕がジムで九条さんを見かけなかったのって、それが原因ですか?」
「…う…ばれてましたか。」
「いや、今思いついたんです。え、じゃあもしかして避けられてましたか、僕。」
「…そう、ですね。避けてました。合わせる顔がなくて。」

 こうなったら白状してしまった方がよさそうだ。

「すみません。きっと好きな人ができるなんて、そんなバカげたこと言って。根拠もないし、約束もできないのに…。なんかあの時に言わなきゃいけないって思っちゃって…。言ったあとに激しく後悔して、合わせる顔を作れませんでした!すみません!」
「…はぁ…よかった。」
「え?」

 心底ほっとした表情を浮かべて、森は言葉を続けた。

「九条さんに会えないのは、何か僕がしちゃったからなのかと思ってました。履歴を見たらジムには来てるみたいだったので。」
「…すみません。森さんは何も悪くありません。私の問題です。」
「だったらよかったです。」

 森のこの笑顔を見るのもなんだか久しぶりだ。久しぶりにしたのは自分のせいだけれど。
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