極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~

大人の嫉妬と男のプライド―Side Yuki―

背を向けて歩いていく御堂さんの姿を茜は見えなくなるまで見送っていた。
心の中でありがとう、そう何度も呟くように。

「茜」
遠くなった彼の背中が見えなくなってから、ぎゅっと目の前の小さな身体を抱きしめる。

彼が茜の嫌がるようなことをするとは思っていなかった。けれど電話に出たときの今にも泣き出しそうな彼女の声がずっと頭から離れなくて。
あの瞬間から本当は不安で仕方がなかった自分の気持ちを落ち着けるかのように、ほとんど無意識に腕に力がこもっていた。

「恐れ入りますが」

なにから話を始めるべきだろうか…そう思考を巡らせていると後ろから控えめな声が聞こえて、茜を抱きしめたまま声のする方に身体を向ける。そこにはシャンパンとケーキを乗せたトレーを持つホテルのコンシェルジュらしき人が立っていた。

「あ、秋ちゃんの後輩の…」
「はい。これ秋先輩から茜さんにと。テーブルによろしいですか?」
「秋ちゃんから?あ、はい…?」

よくわからないまま頷いたであろう茜の返事を聞いてから、御堂さんの後輩だという彼が部屋の中央に置かれたガラステーブルの上にシャンパンクーラーとグラス、ケーキを並べていく。
ケーキの中央に乗せられたHappy Birthdayのプレートが、茜への贈り物だということを物語っていた。

「用意したケーキが無駄になるのはもったいないから2人で食べて。…と、秋先輩からの伝言です」
丁寧にお辞儀をして出ていくコンシェルジュの彼を見送り時計に目をやると、時刻は午後11時50分になるところだった。
< 100 / 208 >

この作品をシェア

pagetop