私に光を〜あなたを信じるために〜
不思議な世界
夜が明けた。今日もいつも通りに学校へ行く。


「あの時はごめん」
きっと私は今変な顔をしてる。誰もが見たことのないようなヘンテコな顔。
「えっと・・・だから何?もう終わったことだからいいよ」
私はそう返した。
一学期の始めらへん、まだ春だった頃に告白した中島健人に今更、謝られている。

健人に告白した一日後には、学年のほとんど全員が私のことを噂していた。
「けーんーとっ」
とかって冷やかすのはまだいいけど
「夏織ちゃんってそんな積極的な人だったんだ、ちょっと引いちゃうな」
「どんだけ自分に自信あるんだよ」
とか影で言われていたのが怖かった。それも、仲の良かった人にも言われていたから。
ある人にはこう言われた。
「好きですって書いた手紙、きもって言われてすぐに捨てられたんだろ。ださっ」
その言葉は何度も私の頭の中で木霊した。まさかあの健人がそんなことすると思ったら私の心はただただ痛んだ。
そのときから、私の友達はどんどん敵になっていった。いつか華奈や他の大事な友達も敵になってしまうのかな。だけど、そんな私の一つの行動が起こしたことなのだから仕方ないと自分に言い聞かせていた。

「ごめん、本当に遅すぎだよな。でも、あの時からずっと罪悪感持ってた」
健人はそうは言うけど私の心にその言葉は届かない。屋上から見る空が私は好きだからただ上を向く。
そうしたら、突然健人が言い放った。
「実は本当は好きだったんだ。だけど、照れくさくって返事返してやれなくて本当にごめん。もし、夏織がよかったら…付き合ってくれない?」
少しだけ私は黙りこむ。
「嫌・・・」
私は心の中に思ってたことを呟いていた。
「え、夏織は俺が好きなんだよな?」
なにが私がよかったらだよ。それじゃあ言わせじゃん。どうせ、私のことなんて好きじゃないくせに・・・
「あのさ、どこの誰かさんか知らねぇけど、好きな女困らせるのは男じゃねぇよ。男どころじゃない、生き物じゃねぇ」
私の隣に知らない男の人が立っていた。フワッとした黒い髪の毛、透き通ってるこげ茶色の瞳、すごく薄い茶色の肌、ゴツゴツしてる手、細長い指、背はそこまでほど高くないけど私よりは高い…
見たこともないけど、私と同じ体操着を着ているからこの学校の人だと思う。多分先輩。
「急に現れてなんなの。俺だってお前のこと、どこのどいつか知らねぇよ。つか、好きなやつを困らせるようなことを俺は言ってないし、してねぇ」
健人は言い返す。一応私は色々困ってたんだけどな。
「なんでわかってやれねぇの?好きなんだろ?好きなやつの異変すらわからないやつにこいつを好きになる資格はない」
知らない男の人は言う。なんでこんなに私を助けてくれているような行動するんだろう。
「つか、お前なんかに関係ねぇだろ。俺らの話じゃん」
健人はまた言い返す。知らない男の人の質問には答えなかったけど。
「たしかに俺には関係ない。けど俺、こいつのことが好きなんだよ。だから、好きなやつが困ってるときにじっとして見てられねぇ」
「え?」
今、たしかにこの人は私を好きと言った。私はあなたが誰かもわからないのに。
「ちっ…なんだよお前」
健人は走って屋上から出ていってしまった。
なんだか気まずいな。知らない男の人と二人とか。それに、好きと言われた後だし。
先に沈黙を破ったのは知らない男の人だった。
「ごめんな。いきなり話に入ってきたり、あの人と言い合ったり」
「いえ、そんな。逆にありがとうございます」
私はあまり良い言葉浮かばず、大体で話した。
「じゃあ、先行く」
知らない男の人は、名も言わずにこの場から去っていってしまった。
不思議な人だったな。なぜかあの人がいた空間だけが世界が違って見えた気がした。誰も信用出来なくなって以来、これが初めてだった。

その日からずっと知らない男の人を探していた。別に気にしなくていいのかもしれないけど、なんだか気になっていた。
「夏織ー、部活行こっ」
華奈が私を呼ぶ。そういえば、華奈にこのこと言ってないし、後で聞いてみようかな。
「うんっ」

「か…」
「結構前に男バレの二年生に転校生入ったらしいよ」
私が華奈って呼ぶのを遮って華奈が言った。
「そんなに身長は高くないけどすごいジャンプしてめっちゃ早いアタック打つらしい。そして、結構イケメンらしいの」
「へー」
そんなに身長は高くないけどという言葉に私は反応した。もしかして、前助けてくれた人かな。
ちょっと期待しながら、私は体育館へ向かった。
ちょうど体育館の前についたら、華奈が言った。
「ああ、イケ転校バレーラブまだ来てないね」
そんな呼び方をするからつい、ははっと笑ってしまった。
「なにその呼び方」
二人でギャーギャー騒ぎながら笑いあっていた。
「ちょっと邪魔だからどいてくれない?つか、どけ」
この声、聞き覚えがある。
ゆっくりと振り返ってみると、あの助けてくれた人、イケ転校バレーラブがいた。
私と華奈は随分固まっていたと思う。
「あのさ、聞いてんの?どけよ」
はっと目が覚めた。
「すみませんでした」
と言って私は体育館への道を開けたが、華奈はその場をまだ動けていなかった。
「華奈、華奈…」
小声で私は呼ぶ。それでも、華奈はポカーンとしてその人をじっと見る。
知らない男の人は、少しだけ開いた体育館へ入る道を華奈の横を通って行こうとした。その瞬間、
「好きです」
華奈がその人に向けて言葉を放った。私も知らない男の人もすごい驚いた。でも、知らない男の人は言葉を返す。
「わりーけど、まだお前のことよく知らねえから」
って。
「それでもいいんです。私もあなたのことはよく知りません。でも、生まれて初めて一目惚れという感情に出会ったんです」
華奈は言う。
私とは大違いだと思った。未だにあの時の怖さを思い出して好きな人ができなくなったとか思っちゃって本当に私は…
「あぁ。でも、恋とか俺にはよくわかんねぇ。だから、気持ちだけでも受け取っておく。本当にわりーな。好きになってくれて感謝してる」
そう言った知らない男の人は、すごい真っ白なオーラを放って体育館へ入っていった。
「初めてあんな人に会った」
華奈はそう呟いて体育館にのそのそと入っていった。
あの人、前と性格が違うような。
私は部活の準備をした。そのときもなんとなくその人のことを気にしていた。部活中はさすがに気にせずにバレーボールしたけど。

毎日恒例の恋バナの時間になった。
「夏織!あのね、あの人の名前わかったよ」
「え、なになにー?」
華奈がここまでほど本当の恋をして私に話すのは初めてだから、私はいつもより耳を傾けた。(いつもはほとんど聞いていません)でも、実を言うと私もこの話、あの人の話に興味があるからだけどね。
「ごほん・・・えーと、名前は神宮寺 翔です♡」
一つ咳払いをして何かを発表する人のマネをしながら嬉しそうに神宮寺先輩…の話をする華奈は可愛かった。
「神宮寺 翔♡名前もかっこよすぎ!神って名前に入ってるんだよ!?本物の神様だよ」
「本当に恋してるんだね」
恋をすると好きな人の一つ一つが大好きになる、のだと思う。いいな、こういうの。いつか私も恋、出来るのかな。

神宮寺先輩の話題は、下校中以外にもするようになった。

「翔君ね、引っ越してきてから何十回だっけ。めっちゃ告られてるんだって。全員断ってるけど、いつ彼女出来ちゃうかと思うと不安で…」
ゆっくりと歩きながら顔を赤くしている。やっぱり華奈は可愛い。そして、恋をするとより一層可愛くなる。だから、応援したくなるのかな。いや、こんなに神宮寺先輩のことを思ってるから応援したくなるんだ。
「大丈夫、自信もって。華奈なら絶対に神宮寺先輩の彼女になれるよ」
私はそう言った。その瞬間、ズキンと私の心の奥が痛んだ。最近こういうことがよくある。なんかの風邪とか病気かな。そんなに風邪とか病気とかなったことないんだけど。なんなのだろうか。
「夏織ありがとう。頑張る。そうだ、明日もう一回ちゃんと告白することに決めた!翔君に彼女が出来てからじゃ、遅いから」
「そんな大したことしてないよー。告白頑張って!そうだね、明日告って華奈が神宮寺先輩の彼女なっちゃえ」
あぁ、またズキって。なにこれ。
「おーい、夏織ー」
この声は…
「湊っ」
「おはよ!小林も」
この朝から元気な彼は、私の幼馴染の清水 湊だ。

湊とは産まれた頃からずっと一緒に過ごしてきた。めっちゃかっこいいし(神宮寺先輩に負けないくらいモテる)、サッカーも小さい頃から上手いし、優しいし、頭もいいし、自慢の幼馴染。なんて、心の中では思ってるけど口にするのはほとんどトゲのある言葉ばかり。まだ幼い頃は素直に言えたのに、本当にいつからなんだろう。こんなヘンテコな自分になったのは。

「何その顔ー。朝から嫌なもの見てしまったような顔は!」
「だって、本当のことじゃん」
湊を朝から見れて元気をもらったというのになんなの私。なにが『本当のことじゃん』だよ。
「そうですかー。せっかく夏織の母ちゃんに頼まれてこれ持ってきてやったのに」
湊が見せてきたのは私の筆箱だった。
「え、あ、嘘!?持ってきたと思ったのに…返せー!」
「湊様、返してくださいは?」
う、こればかりは言うしかないか。
「湊、様…返して、ください」
「はい、どうぞ」
とそっぽを向いて、湊は私の筆箱を投げて走って校内へ行ってしまった。
「ふふっ…ははっ」
隣で華奈が笑ってる。
「何笑ってんのよ」
私は華奈の顔を少しつねりながら言った。
「いや、別にー?」
にやっとしながら華奈が言う。華奈ったらいきなりなんなのよっ!私はムスッとして華奈を見た。
「いつかわかるよ」
華奈にその言葉を言われても全く意味不明だし。
私はそっぽを向いた。そして、再び歩き始めた。

「おはよう、夏織」
教室へ入った途端、理沙が声をかけてきた。
佐々木 理沙は同じクラス、同じ部活でもちろん仲がいい。
「理沙、おはよう」
「ねえ、今日漢字テストあるの?」
唐突に理沙が聞いてきた。
「え、あるの?」
私も知らないから疑問を疑問で返した。
「あるらしいんだよ。やばい、全く勉強してないや」
疑問を疑問で返されても一切気にせずに話を進める理沙はかなりの天然で面白い。
「やばい、私もだ。今、まあいっかって思ってる自分がいる」
私は思ってることをそのまま口にした。
「それな。うちもまあいっかって思ってる自分がいる」
私は(理沙もかな)すぐ、まあいっかって思っちゃう人だ、と思う。

キーンコーンカーンコーン…
朝会の始まる前の予鈴だ。
「並んでー」
私達のクラスの学年委員が呼びかける。私はすぐに廊下に並び始める。なるべくみんなに迷惑をかけたくないからかな?なーんてね!(ちょっといい子ぶりました、すみません)

私は…
「お前ちびだから前だろ」
湊が言う。言われなくてもわかってますよ。そんなこと。でも、湊は背高いから言い返せない。

私は背の順、前から3番目という、ちびです。(ちなみに湊は後ろから2番目)認めたくないけどこれが現実ってやつじゃん?それもクラスが37人で、女子だけは18人の中でだよ!?(涙流れそうです)
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