彼の甘い包囲網
恋敵
「おめでとう!」

皆に笑顔で言われた。

「やっと、だね」

満面の笑顔で鈴ちゃんが言う。

「本当に。
二人とも本気で鈍いのか、わざとなのか、見ててイライラしたわ」

溜め息を吐きながら紗也が枝豆を食べる。

「よかったね、楓ちゃん」

いつもの笑顔で祝福してくれる拓くん。


ゴールデンウィークが明けた金曜日の夜。

仕事が終わった後、私達は梅田のダイニングバーにいた。

社会人になってからはお互いに新生活に慣れることに必死で、なかなか会うことができなかった。

入社して一ヶ月が過ぎ、少しだけ周囲をみる余裕が出来てきた私達は久しぶりに集まることになった。

拓くんと紗也は金融機関に就職し、鈴ちゃんはアパレルメーカーに就職した。

私達は思い思いに自分達の報告をしながら、何度も乾杯をしていた。

私は今日、奏多とのことを報告しようと思っていた。

皆には長い時間、奏多の話を聞いてもらっていたから。

どう切り出したらいいかと考えていたら、目敏い紗也に、蜂谷さんとどうなの、と単刀直入に聞かれ、焦りながら告白した。


奏多には今日、紗也達と食事に行くことを事前に報告した。

だけど。

何処に、誰と行くの、何時に待ち合せ、と何故か詳細に聞かれた。

拓くんがいることに不機嫌にはなるし。

迎えに行くから何時でも絶対に連絡しろよ、と出掛ける直前まで何度も念押しされ、送り出された。

「まあ……楓が幸せならそれが一番よ」

「そうそう!
だって楓ちゃん、今すごく幸せそうだもの」

上機嫌の鈴ちゃんが嬉しそうにビールを飲んでいる。

「相変わらず酒に強いわね……」

紗也が呆れた表情を鈴ちゃんに向けた。

「ビールっておいしい?」

単純な興味で鈴ちゃんに尋ねた。
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