彼の甘い包囲網
帰還
「安堂。
三田先生が探していたぞ」


昼休み。

食堂でパンを買ってきた私が教室に戻るなり、同じゼミ生の相田くんに言われた。


「え、何で?」

来年度からのゼミ担当教授のタイミングの悪い呼び出しに顔をしかめる。

「さあ?
レポートのことじゃね?」

「あ、そっか……ありがと。
紗也、鈴ちゃん。
ごめん、ちょっと行ってくる。
先に食べてて!」


私が食堂から戻るのを待っていてくれた二人に詫びて、教室を出た。


廊下を歩くと校舎の端に植えられている散り始めの桜が目に入った。

桜の木の下には薄桃色の絨毯のように花弁が落ちている。

四月下旬の柔らかな日差しが周囲に注がれていて、気持ちが和んだ。

階段の踊り場の開け放たれた廊下の窓からは、温かい春の風が流れこむ。




奏多と離れて四回目の春が訪れ、私は大学二年生になった。
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