【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
§デートという名の拉致、拉致という名のデート
その日の夜、食事に誘われた。婚約者を装うにあたり、お互いを知っておくべきだという雅さんの提案だった。

私は残業もせずに定時で上がった。年度内の仕事のしわ寄せがくる今月、皆がオフィスに残る中、立ち上がるのは勇気がいった。けれど、食事だけなら1、2時間でもどれる。それから案件を片付ければいい。

セキュリティゲートを通って外に出ると、ロータリーには濃紺のセダンが停まっていた。助手席のドアが内側から開けられ、そこからキミと声をかけられた。雅さんだ。定時だったこともあり、あたりには結構な数の社員がいて、こちらを見ていた。


「乗ってハニー」
「は、ハニー?!」


思わす声を荒げると立ち止まって見るひとも出てきた。海外勤務だったとはいえ、取締役のひとりだ。彼の顔を知る人もいる。


「ハニーがいやならダーリンか?」
「どうして英語なの」
「日本語ならいいのか? じゃあ痴女? 指フェチ女? どっちがいい?」
「もっと悪いです! みなさん見てますから」
「ならさっさと乗れ。ハニーかダーリンか痴女か指フェチ女か、話し合うのは車内にしたらいい」


雅さんはいたずらに笑う。好奇の目に囲まれ、私は皆の注目から逃れたくて助手席に飛び込んだ。
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