只今上司がデレデレちゅぅ!!〜溺愛上司に愛されて〜
第1章

出会ってしまった

大学在中に受けた大手企業の面接当日。

美羽は緊張していた。

「うう…お腹痛い…」

廊下に並べられた椅子に座って蹲る。

「頑張って美羽。ここは貴方の憧れなんでしょう?」

同じ大学の同じ学部の友人である桃歌もまた、美羽と同じ大手企業の面接に来ていた。

「そうだけど…緊張はするよぅ~…」
「そんだけ喋れていたら大丈夫よ」

美羽と同じように彼女も緊張はしていた。

『次の方、どうぞお入りください』

面接会場の人が呼ぶ声が聞こえた。

いわゆるグループ面接と呼ばれるものであり、美羽と桃歌を含めた五人が会場の中に入って行った。

「失礼します」

ノックしてからぞろぞろと中に入った。

並べられた椅子の前に立って美羽は面接官の方を向いた。

すると、一番端に座っていた面接官と目が合う。

美羽は目から視線を外して首元を見るようにした。

面接官と目が合ったことで頭がいっぱいになった美羽は、会場から出てくるときものすごく項垂れていた。

「大丈夫よ、ちゃんとしてたわよ」
「いっぱいいっぱいで、何言ったか全然覚えてない…」

美羽と桃歌は一度家に帰ってから大学に行った。

大学にいても美羽はまだ項垂れているようだった。

「ずっと項垂れていても仕方ないわよ、終わったんだから」

桃歌は片手に珈琲を持ちながら美羽の頭を撫でる。

「面接どうだったんだ?」
「あ、健翔」
「え…?」

健翔と呼ばれた男子大学生は美羽の隣に座った。

「あ、健翔だ。何でここにいるの?」

健翔と美羽は幼馴染であり、幼少期の頃からの付き合いだった。

「大学にいちゃ悪いかよ」

健翔は乾いた笑いを浮かべた。

美羽はまた顔をテーブルに伏せる。

「どうしたの、こいつ…」

健翔が桃歌に話しかけて、桃歌は詳細を話した。

「なるほどねぇ…頭が真っ白状態になった訳か」

桃歌は健翔の言葉に頷いた。

「まあ、いんじゃねぇの?覚えてなくても自分の本心は言えたんだろ?」

うどんをすすりながら美羽の方を見る。

「うん、そんな気がする…」

美羽は小さく頷いた。

「ならいいじゃん。頑張ったな」

健翔は幼き頃の様に美羽の頭をポンポン撫でる。

美羽を慰めるには一番効果抜群だ。

「…ありがと」

健翔に素直になれない、それも何時も通りのことだった。

健翔が席を離れて美羽と桃歌は学食で暇をしていた。

「…サークルでも覗きに行く?」
「ううん…行かない」

桃歌の提案を美羽は断った。

サークルに入っていたとしても活動的だった桃歌に対し、美羽は幽霊部員と化していた。

「結果発表っていつだっけ?」
「来月あたり?」
「ああ、気が重い…」

美羽はまたテーブルに顔を伏せる。

桃歌は何杯目か知らない珈琲をまだ飲んでいた。
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