こんな恋のはじまりがあってもいい
ホントのこと
翌日。

解決しないモヤモヤを抱えながら、
教室に足を踏み入れた。

ドアの近くにいた友達と軽い挨拶を交わす。
いたって普通。いつもどおり。

そのことに内心ホッとしながら
自分の席へ着き、カバンから荷物を出し机に入れる。

ふと、視界に制服が見えた。

「…あかね、おはよ」

いつもより控えめな声で
ミキが立っていた。

「あぁ、おはよー」

そっけない返事をするつもりじゃなかったが
いつもと違う雰囲気で挨拶されて平気なフリできるほど
私は大人じゃない。

「あのね、その…」

何かを言おうとしてるようだ。
一体、どの話なんだろう。

少しモヤモヤと苛立ちのようなものが胸をかすめたが
まだ、友達というキーワードが
私に彼女を信じさせようとした。

「どうしたの?」

あくまで、何も知らないフリをする。
こちらから突っ込んではあげない。
そんなに親切なことはしない。

私はそこまでいい人にはなれない。

彼女はチラリと時計を見た。
まだ、始業まで15分はある。

幸い、今朝の私の机の周りには誰も座っていない。

ミキは私のひとつ前の席に腰を下ろし
膝に置いた両手をギュッと握って、話し始めた。

「……ごめんね」

突然謝られても、正直反応に困る。
ここはどうするべきなのか。

「……何のこと?」

そう聞くことしか、できなかった。
少し意地悪な感じもしたけど、そこで全てを察するほど能力は高くない。

「実は、もう知ってるかもしれないけど…圭太くんと、付き合うことになって。」

うん、知ってるよ。
ずっとそれで私もモヤモヤしてた。

「最近一緒に帰れなかったし、なんとなく気まずくて。あかねは圭太くんと仲良しだから…」

うん、そうだろうね。
それも何となく分かってたから、知らないふりしてたんだよ。

敢えて言わないけど。

「でも、ちゃんと言わなきゃってずっと思ってて。」

「うん、分かった。教えてくれて、ありがとうね」

私は笑って、彼女にそう伝えた。

これは、本心。
言ってくれて、良かった。

これ以上、言い訳とか彼女の気持ちとか、知らなくてもいい。
そんな気持ちも少しあった。
ただ、伝えてくれたこと。
それだけで充分。

そして、今やっと
私は素直に、彼女に言える。

「良かったね。」

少し、寂しい気持ちもあるけど
今はもう、二人を大事にしたい。
ミキは大事な友達だし、圭太はその彼氏。
そして私の仲良しの、友達。

やっと、応援する気持ちになれそう。

ミキは私の言葉を聞いて、目に涙を浮かべていた。
「あかねぇ……ほんとに、ごめんねぇ」

「なんで謝るの。ほら〜朝から泣かないの」
私が泣かせたみたいで焦る。

彼女の頭をポンポンと優しく撫でる。
ああ、もしかして
真野くんはあの時、こういう気持ちだったんだろうか。

そして
ミキは私の気持ち、気付いてたんだろうか
だから、今まで言えなかったのかな。
そうだとしたら、それはそれで
私も悪かった、かも。

友達って
難しい。

でも、これからは
もう、そんな事で悩まなくていい。
私も、ミキも。

「それならそれでいいんだよ〜あたしはミキが楽しく過ごしてくれたら、それでいいよ」

「ふえ〜ん、あかね〜ありがとう〜」

「だーかーらー泣かないでっ、私が泣かしたみたいに見えるっ」

「あ、ごめん」

「も〜早く顔洗ってきなよ。授業始まるし、みんな心配するよ」

冗談ぽく茶化して話を終わらせ
ホレホレと彼女を促し、背中を押して一緒にトイレへ向かう。
なんでもないそぶりで私たちは教室を出た。

結局、昨日の事は聞けなかった。
その事が少し、気になったけど
今日はいつもより、穏やかに過ごせそうな気がする。
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