いちばん、すきなひと。
ほら、やっぱりね。
陽子ちゃんは家にいた。

結局。4人になってもやる事は同じで。
自転車に乗ってブラブラ。

町をぐるりと一周して。
また、あの公園の側にやってきた。

「まだいる。」
思わず私は眉をしかめてしまった。
さきほど会った、バスケ部軍団。

何故公園の中でなく、前なんだろうか。
道路にはみ出した自転車が邪魔だから
中に入れよこのやろう。

と、内心本気で思った。

けど。
後ろの可愛い女の子をひきつれて
イケメン軍団に喧嘩を売る気も、ない。

寧ろ離れたかった。
自分だけが惨めな気分になりそうな予感が、した。



それは見事に的中。



「あーっ!またみやのっちがいる!」
野々村だ。

あいつ、そんなに親しいワケでもないのに
勝手にあだ名で呼ぶし
何なんだ一体。

それが、今日『会った』と思われる
アイツの第一印象だった。


「んだよ、いたら悪りーかよ」
ついこんな風に答えてしまう自分が残念。

もうオッサンだわ、この言葉遣い。


「じゃ一緒に遊ぶ?」
意外な一声が、野々村の口から聞こえた。

「遊ぶって何を。どうせそこで集まってグダグダするだけじゃん」
「みやのっちもグダグダしてるだけじゃん。一緒だろー」
どこまで馴れ馴れしい奴なんだアイツは。

人なつっこい笑顔でそう話しかけられて
満更悪い気はしない、正直。

だけど。

後ろにいる人形みたいな可愛い二人の前で
そんな事で喜んでは、いけない。
私は二人の引き立て役だろう。

どうせ、あのイケメン軍団も。
この二人がお目当てでしょう。


そうかそうかそういう事、だよな。


私は内心ガッカリして。
でもそれも自分の役目かと諦めて。

「嫌だねー時間もったいなさそうだし」
と、断りながらも。
後ろの三人を振り返った。

優子ちゃんは持って生まれた天性か
この手の状況は馴れていて。
「あはは、そうだねーだって何もしてないじゃんキミたち」
と、話に入る。

小学校からの付き合いがある陽子ちゃんも同じく、賛同して輪に入る。

直子ちゃんは。
にこにこ笑って、その場に静かにいた。

「あ、海原さんだ」
野々村が、直子ちゃんに気付いたようだ。

直子ちゃんはもちろん、野々村も
私たちとは小学校が、違う。

けれど。
「俺たち一緒の小学校だったよねー」
と、野々村は親しげに話しかける。

「へーそうだったんだ。」
皆で二人を見る。

「まぁね。でも全然同じクラスにはならなかったじゃん。喋った事ないよね、多分」
直子ちゃんは野々村に確認する。

もうこの一言で、
直子ちゃんも『輪』の中に入ったと気付いた。

一緒に遊ぶ気はないけど、
こうして偶然会った事をきっかけに
男子と喋るのって楽しい。

それが自分だけでなく、他の子たちもそうだといいな。
純粋に、そう思っただけだった。

そう、この日は。

これがきっかけで、自分がこんなにも悩むなんて
思ってもみなかった。




すっかり『輪』に入った私たちは、しばらくの間
くだらない世間話につき合って。
適当に切り上げた。


私は自分が楽しみたかったのもあるけど
やっぱりその輪に入ってみて
皆があの二人を見つめるのを見て
ちょっと胸の中が黒くなった。

ほら、やっぱりね。

みんな可愛い子がいいんだよね。


分かっていたけど。
自分がダシにされてるのも。

可愛い訳じゃないけど
気さくで話しやすいから
間を取り持つのにもってこいでしょ私。


そこに『自分の存在価値』があるという事が
心地いいのか悪いのか。
なんともいえない気持ちをかかえたまま。
バスケ部の皆と、離れた。


しばらく自転車でブラブラしたあと、
近所のクレープ屋で休憩。

クレープとジュースを飲みながら。
可愛い二人がキャッキャと楽しそうにしている。

陽子ちゃんはそんな二人を見て
「なんだか楽しそうだねーそんなにバスケ部と会えたのが良かったの?」
と聞いた。
私も同じ事が聞きたかった。
ナイス陽子ちゃん。

「うん!だってね、あのバスケ部と話せる機会なんて滅多にないんだもの!」
直子ちゃんはとっても嬉しそう。

そうか、それはよかった。
と、素直に私も喜んだ。
黒い気持ちは、見ないでおこう。

くだらない嫉妬だ。
可愛い子への。
そんな自分がまた、醜いから。
あえて知らないフリをして。


今は、素直に喜ぼう。

直子はそんな私の気持ちも知らずに
「まいちゃん!ありがとう!今日、一緒に遊べてホントよかった!」
と、ギュッと手を握って感謝された。

複雑。
だけどここは一応。

「そう。ならよかった。またこんな機会が増えるといいね」
とだけ、返しておいた。



やっぱり、損な役回り。

イケメンと美女くっつけて
何が楽しいんだか私。

だけど。
友達が喜ぶのは、自分も嬉しい。
例えこの二人がアイツらの目的でも
それの架け橋に自分が関われるのなら
まだマシかもしれない。


そう思って。
私は手に持ったクレープとジュースの味に集中して楽しんだ。
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