続*もう一度君にキスしたかった
朝比奈由基の苦手なものは
翌日、日曜の朝早くホテルをチェックアウトすると、真直ぐに病院に向かった。
朝比奈さんも病室にずっと閉じ込められて早く出たかったのか、昨日病室に届けておいた私服に着替えて準備万端だった。


午前中に診察を終えて、向こうに戻ってからお世話になる病院への紹介状を受け取って、退院となった。
額を縫っているのでまだしばらくは病院のお世話にならないといけないらしい。


傷口の消毒もしないといけないし、心配だから暫くは朝比奈さんのマンションに泊まってもいいかなあ。


駅までタクシーに乗りながら勝手に予定を考えていれば。


「真帆、せっかくだし観光でもして帰る?」


などと、朝比奈さんは大変呑気にしてらっしゃった。


「何言ってるんですか! 怪我人なのに!」

「そんな大した怪我じゃないし大丈夫だよ」


彼の目が、窓の外を見ている。
賑やかな通り、ビルの隙間から見える空は晴天だった。


「来年春にある祭典のイベント会場が関西にあるからね、真帆も見て行かないかと思ったんだけど」

「それ、朝比奈さんが怪我したとこ?」

「そこはもう今週から始まってるよ、小さな催事だしね。それじゃなくて、菓子博覧会」

「あ! あれ、そっか、今回は関西でしたね」


数年に一度開催される、菓子博というお祭りがある。
全国の和洋菓子のメーカーが集まり、工芸菓子の展示やゲームコーナーなどのパビリオンが設置され、勿論土産物やワゴンセール、新作発表などで販売もされる。


毎年あるわけじゃない大きなお祭りなので、各メーカー当然ながら力が入るのだが、やはり地元が主力になる。
今回は大阪支社が拠点になるだろうから、残念ながら私は関われそうにない。


「確かに、ちょっと見てみたいです。どんなとこで開催されるのか。大きな敷地なんですよね?」

「広いね。お年寄りとか広すぎてちょっとキツそうだね。各メーカーの販売スペースを遊歩道に添って作られるらしいんだけど、一番集客ありそうな陣地をサンリーフ製菓のオランジュショコラと競ってるみたいだね」


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