王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
7.魔法を解くものは


 バームは、夜が明けると同時にグリーンリーフから飛び立っていった。そして、予想外にも昼には戻って来たのだ。


「バーム? 早すぎない?」

「途中で馬車を見つけたんだ。クラリス様、様子を見るつもりで朝一にノーベリー領を出たところだったんだって」

「ええ?」


驚いているうちに、二人乗りの馬車がグリーンリーフの前に停まる。

先に下り立ったのはすでに老年に入っているデイモンだ。総白髪だが、骨格がしっかりしていて立ち姿はまだまだ逞しさを感じさせる。次いで降りてくるのがクラリスだ。ほんの少し目尻にしわがあるものの、髪は綺麗なブロンドで、神秘的な美しさを持っている。実際はデイモンとそう変わらない年だが、見た目は若々しく、デイモンと並べば親子のようにも見える。


「これはこれは、デイモン様までいらっしゃるなんて」


出迎えたジョンとベティが頭を下げる。頷くデイモンの傍に寄り添うクラリスが朗らかに笑った。


「ジョン、ベティ、久しぶりね。エマもジュリアもすっかり大人の女性になったわね」


圧倒してくる美しさに、エマは見とれてしまう。
クラリスはつかつかと中に入って来たかと思ったら、エマの前で急に真顔になり、頬をきりりとつねった。


「いひゃいです!」

「惚れ薬を作ったんですって? 馬鹿な子ね」

「すみません」


突然怒られて驚いたが、クラリスは頬をつねったことで満足したらしく、手を放してからは再び朗らかな調子に戻った。

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