35階から落ちてきた恋
そろそろ起こそうかと思っているところで進藤さんが目を開けた。

「あ、ちょうど声をかけようと思ってました。ご気分はいかがですか?」

つばを飲み込んで軽く眉間にしわを寄せる。
「だいぶいいけど、まだ喉は痛いな」

「そうでしょうね。他はどうですか?」
聞きながら左手に触れて脈拍を図る。顔色も随分とよくなっている。

「かなり楽になった気がする。ああ、これなら動けそうだ」

「今は解熱してますからね。よかったです。出かける前にシャワーを浴びたいですよね?今浴室の支度をします。進藤さんは今のうちに水分を取ってください」

ペットボトルを手渡して私は立ち上がった。

「ありがとう」

進藤さんがボトルに口をつけるのを確認してバスルームに向かった。

バスタブにお湯をため、しっかりと蒸気で浴室内を温める。
「進藤さん、シャワーだけじゃなくて疲れない程度にバスタブにも浸かってきて下さいね」
とタオルを渡した。

「わかった」
立ち上がり、バスルームに向かう途中で進藤さんがふと振り返る。

「果菜もシャワーを浴びてくれば?向こうの寝室にシャワーブースがあっただろう。今日も夜遅くまで付き合ってもらうことになるから」

「え?ああ、そうですね。でも」

入浴中に進藤さんの気分が悪くなったら困るし…と言いよどむと

「心配なら一緒に入る?もう俺の全部を知っちゃってるわけだし」
とニヤニヤしながら凄いことを言いだした。

何てこと言い出すんだ、この人は。

ドキッとしてしまったけど、
「いえ、それは遠慮しときます。進藤さんが大丈夫そうならあちらのシャワーブースをお借りしますね」
動揺してることを隠して平然と言い返した。

「なーんだ、つまらないな。ま、いいや。また今度な」

そう言ってバスルームに向かう進藤さんの背中に「今度もありませんよ!」と思わず叫んでしまい、笑われた。
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