蜜月同棲~24時間独占されています~
初恋は遠く仄かに 

幸せ度数直滑降

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儚く終わった初恋なんていうものを、いつまでも手放せないほど私も子供のままじゃない。
誰だってそうだろう。


募る想いを飲み込んで、朝を迎える数の分だけ涙を堪えることに慣れていく。


学生は忙しい。
どれだけ気が重くても学校には行かなくちゃいけなくて、受験に向けて徐々に追い立てられていくものだから都合が良かった。


忘れるためにがむしゃらに勉強したら、思っていたよりそこそこいい大学の合格圏内に入ることができ、その頃には思い出すことなんてもう稀だった。


死んでしまうんじゃないかと思うくらいに傷んだ胸も、月日が過ぎればなんてことはない。


ただ、時折、そう時候の挨拶のように記憶の奥底からひょっこりと顔を覗かせる。


例えば春咲く桜や、ふと耳に響いた晩夏の蝉に思い出の欠片を見つけてしまうその時だけは、記憶の中の面影が淡く仄かな色を取り戻し、小さな痛みと共に懐かしむ。


そうした初恋の記憶を胸の底にしまった人の殆どが、やがて新しい恋を見つけて毎日を過ごしているように、私、立花柚香もそうだった。


大学生活を難なく送り、そこそこの企業に就職した。
そこで出会ったひとつ年上の先輩に恋をした。


誠実な人で一緒に居れば楽しくて、この人とならいつまでも仲良くいられるんじゃないかと思えたから、私はプロポーズに迷うことなく「はい」と答えたのだ。


二十六歳、社会に出てまだ四年程度。少し早いかもしれないとも思ったけれど、幸せだった。




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