蜜月同棲~24時間独占されています~
初恋と現実 

初恋の人

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「お姉ちゃん、ごめんね。せっかくドレス作ってくれたのに」

『そんなのは良いのよ馬鹿ね! 忘れなさい、もっといい男捕まえて、その時はもっと良いドレス作ってあげるから!』


姉には、母経由だけではなく私から直接謝りたくて、こちらから連絡をした。
本当は会いにいければ良かったのだけれど、姉も中々忙しい人で電話での報告となってしまう。


姉は、いわくつきのドレスになったんだから、捨ててしまうか引き取りに行くと言ってくれたけれど、それは断った。
ドレスは克己くんの元にあるし、捨てるなんてもってのほかだ。


確かにいわく付きになってしまったけれど、だったら尚更大事にしまっておこうと思う。


姉との通話を切って、私は落ち着きなく次の連絡を待っていた。
今日は土曜、克己くんとの約束の日だから。


そろそろかな、と思った頃、スマホが短く振動して液晶画面にメッセージが表示される。


『着いた。出て来れる?』

『すぐ出るね』


と返信をして、グレーの厚めのニットガーディガンを羽織った。


少し悩んだコーディネートは、気取り過ぎないように、それでも手持ちの中では大人っぽく見えるものを選んだ。黒のリブパンツに、カーディガンの中は白のトップス、足元はシルバーのパンプス。それから、グレーのコートを羽織る。


酔いつぶれた日に会ってはいても、全く覚えてないので私にとっては数年ぶりの再会でしかない。
記憶にあるのは、高校生の頃の面影だけで、もうずっと過去の思い出の人だけれど、やっぱり初恋というのは特別だ。引きずっているわけでなくても、少しは見栄を張りたかった。


克己くんは、どんなだろう。高校生の頃から、少し大人びた雰囲気を持っていたけれど、今は更に落ち着いているのだろうか。
ちょっとしたわくわくとドキドキを胸に抱えて階段を駆け下り、マンションのエントランスを出てすぐのことだった。


白のセダンのすぐ傍に、ダークスーツのすらりとした長身が見える。すぐに彼だとわかった。


「克己くん!」


小走りで駆け寄り、距離が縮まるほどに身長差を実感する。百八十cmは間違いなくあるように感じた。
はあ、と弾む息を整えて、克己くんを見上げる。


彫りの深い整った目鼻立ちに、微笑む口元は柔和な雰囲気を漂わせる。切れ長の目の中央、黒く輝く瞳は昔のままだが、髪色は以前は茶色に染めていた。今は元の髪色のままなのだろう、瞳と同じく艶を宿した黒だった。面影はそのままだが、記憶の中のまだ幼さの残る表情とは違う。大人の落ち着きを備えた男の人になっていた。
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