真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

「彼女を好きになったわけ」 ーー広務Ver.ーー

彼女との縁が繋がったのは、お互いの担当カウンセラーが同じことだった。

いわゆる。『お引き合わせ』というものだ。

約束の時間ギリギリに結婚相談所から指定されたカフェに現れた彼女は、ずいぶん急いで走って来たせいか、せっかくの綺麗な長い髪が風に悪戯されて左右あちこちに毛先が踊っていた。

水色の細身のワンピースにオフホワイトのジャケットをさらりと羽織って、足元はハイヒール。

クールなキャリアウーマンタイプに見えた彼女は、遅刻ギリギリで待ち合わせ場所に現れたことを顔を真っ赤にして謝ってきた。

その様子と風に乱れてクルクルとした髪が、まるで”おてんばな小さな女の子”のようで。ひどく緊張していた俺の気持ちを一瞬にして溶かした。

そして、俺は彼女にまた会いたいと思った。


初めてのデートの帰り道、夏の夜風を受けながら二人で河川敷を歩いていた時のこと。

左肩にかけたバッグの持ち手を掴んでいた彼女の右手が持ち手から離れて、スッと俺の左手と隣り合った。

その時、今にも触れ合いそうな彼女の指先に魅せられていた俺は、自制心を保つのが容易ではなかった。

彼女を卑しい欲求の対象になどしたくなかった俺は、自分を戒めるために両腕を固く閉じた。

男としての浅ましい欲求を自覚した時、同時に俺は彼女を自分の大切な女(ひと)として意識していることに気が付いた。

駅前で彼女をタクシーに乗せて見送った後も暫くときめきは止まず、ようやく心を沈ませることができた頃に花火大会でのデートを申し込んだ。


三日経っても彼女からの返事はなかった。

もしかして、彼女は河川敷での俺の浅ましい欲求を見抜いて、卑しい男だと思ったのだろうか......?

しかし、彼女はどんな相手に対しても誠実に対応する女性だと俺は信じている。

無言で関係を絶つなど、彼女に限ってそんなこと......。

きっと、何か連絡できない理由があるはずだ。

彼女を信じたい。

それほどまでに。もう俺は彼女に惹かれているーー。

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