セルロイド・ラヴァ‘S
何だかんだと部屋着や下着のほかに通勤用の服も二揃えぐらい。化粧品類は愛用しているメーカーのトラベルサイズがドラッグストアに売ってるはず。今は髪もショートボブで、スタイリング剤あればドライヤーだけで朝は事足りる。

つまりそれほど愁一さんの家に持ち込む荷物は多くなくて済む。少しほっとしていた。まだこれからどうなるかも分からない内から“境界線”を大きく踏み越えるのは、やっぱり躊躇いがある。

必要なものを詰め込んだボストンバッグを置きに、一度愁一さんの家に戻り。それから彼の車でスーパーや100円ショップ、ドラッグストアが併設されたショッピングセンターまで買い物に出た。躰はもう隅々まで知られてるとは言え、一緒に出かけるのはこれが初めてで。それはそれで緊張して落ち着かない。

助手席でスマートに運転している彼の姿にドキッとしたり。カートを押しながら愁一さんが人前で「睦月」って呼ぶ度に心臓跳ねたり。こんなに恋愛初心者だったかと自分で自分が手に負えない。私に振り向く顔はいつでもやんわりと笑んでいて。胸がきゅっとする。

彼が好き。・・・唐突に現実味を帯びた。

最初から歯止めを掛けられる地点すら跳び越えていた。止められない自覚もあった。このままこのひとに惹かれ続けたら私はどうなるんだろう。

甘さより苦い切なさが心の中に滲んで。消えずに残った。
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