セルロイド・ラヴァ‘S
ベッドで手の自由を奪い、自分から躰を開くように優しく命令しながら。愁一さんは時間をかけて追い詰め私を責め上げる。絶え絶えの切願に耳も貸さず、まだ足りないと玩具で遊ぶように啼かせ続け。2度果てた彼が愛おし気に髪を撫でてくれている内、知らず眠りに落ちていた。

気怠い微睡みの中、突如鳴り響いたスマホのアラームで目が醒める。7時半。カーテンが半分引かれて明るさが差し込む寝室。寝返りを打つと愁一さんがいない。裸のままの重たい躰をゆるゆると起こす。ワンピースタイプの部屋着だけ頭からすっぽり被って、1階のリビングに下りた。

「おはよう睦月」

Tシャツにスェットのままでキッチンに立つ彼が振り返り、やんわりと笑顔を向ける。

「おはよう。・・・ごめんなさい、いつも愁一さんにばっかりさせちゃって」

ハムエッグだろうか、香ばしく焼ける匂い。

「疲れさせてるのは僕だからね、気にしなくていいよ。・・・先に食べる?」

横に立った私に軽くキスを落としクスリと笑った。
 
「うん。パン焼くね」

中に食パンがもう並んだトースターのスイッチを入れ、ダイニングテーブルにランチョンマットやジャムを用意。さすがにどこに何があるかは慣れたから迷わずに、自分であれこれ出来るようになってる。

ここからだと会社まで10分もかからないから、起きてご飯を食べて、シャワーを軽く浴びても余裕だ。タートルニットとロングスカートに着替え、出勤する準備を整えていると。ソファで新聞に目を通していた愁一さんがふいに私を傍に呼んだ。

「・・・明日は休みでしょう? 今日の夜、羽鳥君を店に呼びたいから都合を訊いておいてくれないかな」

淡い笑みで。全くいつもと変わらない優しい表情で。前触れもなく心臓に撃ち込まれた鋼の杭。貫かれた衝撃に呼吸を忘れた。その瞬間、自分がどんな顔をしていたのか考えたくなかった。言葉も失い立ち尽くすだけの私に。彼は何を思っただろう。

「・・・・・・どうして羽鳥さんを呼ぶの?」

平静を装いぎこちなく笑ったつもりだったけれど。そう出来たかどうか。

「いつも僕の睦月がお世話になってるしね。挨拶をしておきたいだけだよ」

穏やかに言う。細めた眼光だけが真っ直ぐに。隠したものを見抜いているように。

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