元社長令嬢の本命
一口含んでまずそうな顔をした後、嘘でもフォローを入れることもないまま、秋人は失敗作のケーキを全てお腹の中におさめ、そのままその唇を私の唇に重ねた。

「バレンタインの本命のお返し」

甘い甘いキスと、愛しいものでもみるような優しい目。冷たいと思っていたのに、実は全然違った。この、私のわがままさえも包む込むような秋人の優しさが苦手だ。

「本命だなんてまだ言ってない」

どうすればいいか分からなくて、いたたまれない気持ちになる。今日は素直になるはずが、つい憎まれ口を叩いてしまう。

「それは残念」

全てお見通しだとでも言いたげにクスリと笑った秋人に促されるように、今度は私からその唇に「お返し」と、精一杯の愛の告白をした。私のわがままを許して、自然と甘えさせてくれる秋人のことを私は、愛してる。

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