私の愛しいポリアンナ
見えない心臓


『熱愛発覚⁉︎歌舞伎界の御曹司、お相手は一般女性?』

ゴテゴテとした文字に、頭が痛くなりそうだった。
秋はコーヒーを買おうと立ち寄ったコンビニでその雑誌を見つけた。
思わず手に取ってしまったことに自分でも驚く。普段は全く読まない雑誌なのに。
おかしな表情をした現総理の顔が描かれた表紙。だらだらと続く見出しの中に、秋のことを指しているであろう一文がある。
いや、自分のことが書かれているのだから普通は見てしまうだろう。
チェックだ、チェック。
あることないこと書かれていたらたまったもんじゃないし。
今取り組んでいる事業のことを書かれるならまだいいが、プライベートな恋愛事情をあれこれ書かれる趣味はない。
俺は芸能人でもないし騒がれるほどの富豪でもない。
秋はそう自分に言い聞かせながら、雑誌をレジへ持っていく。
無愛想な店員からコーヒーのカップを受け取りながら、「袋いらないです」と伝える。
店員は少し不思議そうな顔をしてシールを貼り、雑誌を秋に寄越した。
コーヒーが抽出されるのを待ちながら、秋は早速雑誌を開いた。
そこには秋のプロフィールから始まり、どこで調べたのか秋の恋愛遍歴まで簡単にまとめてあった。
……名誉毀損、プライベートの侵害で訴えてやろうか。
秋の眉間にシワがよる。
こんな記事の需要はないだろうに、なぜ記者はこの記事を書こうとしたのか。
パラリと雑誌のページをめくる。

記事の主な内容はこの間のみのりとの映画のことだった。
驚いたことに、どこからつけられていたのか写真まで撮られていた。
御街の趣味の悪いネオンをバックに連れ立って歩く秋とみのりの姿。
一般人だからかみのりの目は黒線が引かれていた。
しかしどう考えても撮られた場所が悪い。
歓楽街の御街で、ポルノ映画を多く取り扱っている映画館に入って行くところまでバッチリ見られたようだ。
『爛れた関係か!?』と余計なお世話でしかないアオリまで付いている。
爛れるもなにも、まだキスしかしてない中学生みたいな恋愛だ。これを書いた記者に伝えたらどんな反応が来るだろう、と秋は思った。
というか、あの時も一度も肩を抱かなかったどころか手さえも繋がなかったのだから、俺ら二人の関係くらいは予想がついただろうに。
『設楽秋、意外と奥手か!?』なんて書かれたらそれはそれで腹が立つが。
幸い、みのりについて詳しいことは書かれていなかった。
あの時話した会話の内容にも触れていなかった。鹿川関連の話をしているところを知られなくてよかった。
秋は薄っぺらな記事を読み終えるとすぐにコンビ二のゴミ箱に突っ込んだ。
みのりの職業についても個人的なことについても書かれてなかったのでひとまずは様子見だ。
いちいち相手にするのも金と時間の無駄だし、どうせ日々出てくる新しいゴシップで世間は秋の恋愛模様などすぐに忘れる。
コーヒーの口を開けながら秋は歩き出す。
気分を切り替えなくては。


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