包み愛~あなたの胸で眠らせて~
広海くんは私を思い出してくれて、気を許した感じに見えたけど、それは思い違いだったのかも。

昔のように名前で呼ばれて、あの頃に戻れるのではないかと近付いたけど、ただの思い上がりなのかも。

出直そうとしたけど、いろいろ考えていたら再び訪ねる勇気が失せてしまった。だから、お粥を温め直して、自分で食べる。


「それ、広海くんのとこに持っていったんじゃないの? やっぱりいらないと言われた?」

「言われていないから。ただ出てこないから、寝てるのかなと思って」

「だったら、またあとで持っていけばいいんじゃないの?」

「迷惑になるんじゃないかなと、思ってね。やめた」


今起きてきたばかりの湊人は大きなあくびをしてから「なるほどね」と納得したかのような顔をする。やっぱり生意気な弟だ。


「沙世ちゃんさ、今の広海くんが昔と同じだと思わない方がいいよ」

「うん、でもね……」

「なに?」

「ううん、何でもない。とにかく、もう行かないと決めた」


昔のように何でも分かり合える関係に戻れるなら戻りたいと願うが、そう願うのは私だけのようだ。

広海くんはどういう気持ちで昨夜「帰って」と言ったのだろう……。
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