不器用な殉愛
闇が光に恋焦がれたとしても
 ヒューゲル侯爵が戻ってきた後も、ディアヌの生活はさほど大きく変化したというわけではなかった。

 修道女達ともども、母が暮らしていた一角に住まい、『王妃』として行動するのはルディガーから、そうするように求められた時だけ。

 その日は、ヒューゲル侯爵が床上げをし、祝いの宴が開かれることになっていた。広間に集まった人達が思い思いの場所に座ってくつろぐ中、ディアヌは居心地の悪い思いをしていた。

 気の優しい修道女見習いを知っている者はここにはいない。侍女兼護衛として側にいてくれるジゼルも、すぐ後ろにいてくれるとはいえ、目に見える範囲にはいない。

 用意された椅子に腰かけ、集まった貴族達がヒューゲル侯爵に見舞いの言葉をかけているのを遠くから見ていた。

 隣にいるルディガーが、そっとディアヌの方へ身を乗り出す。

「こういう場は好まないか」

「慣れては、いませんから——父が生きていた頃も、こういった場には必要最低限しか出なかったので」

 父は、こういった場にディアヌを出し、縁談を結ぼうとしていたらしいが、そんな相手は見つからなかった。だからこそ、異父兄達には役に立たないと思われていたわけであるが。

「私が、この場に長居しては、気分を害する人もいるでしょう。もう少ししたら部屋に戻ります」

 いつも身に着けているのとはまるで違う上質な絹の肌ざわり。首にかけられた首飾りがずしりとした重みを伝えてくる。頭に乗せた王妃の冠は、自分には分不相応のように思われてならなかった。
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