不器用な殉愛
エピローグ
「まさか、あなたが王妃様だとは思いませんでした……!」

「あら、私にできることはたいして変わりないのよ。ここで、こうしているのは陛下の望みでもあるんだもの」

 修道女見習い「アメリア」が、王妃「サビーネ」であることを知った施療院の患者達は大騒ぎだった。

 結局、異母妹と入れ替えられ、本当の名は「サビーネ」だと知らされた後もサビーネは、「ディアヌ」の名を捨てようとはしなかった。

 正式な記録には『ディアヌ・サビーネ』と名乗ることに決め、異母妹の名を先に記すことにしのは、命と名前を与えてくれた異母妹に対する感謝を忘れたくなかったからだ。

 もちろん、彼女は真実は知らないままだった。ルディガーもノエルも、彼女には真実を隠し通したから。

 後見人となったヒューゲル侯爵は、異母兄の妻であるブランシュ王妃に崇拝にも似た感情を持っていたようだ。

「本当にお母上にそっくりだ」

 と目を細めて見つめる姿に、ブランシュ王妃へのかなわない愛が見え隠れしているのを気づいたのはサビーネだけだっただろう。

 兄への愛と。兄の妻への愛と。彼もまた、愛に殉じようとしていたのかもしれない。

 あの時、『ディアヌ』を殺したならば、彼もまた生きていることはできなかっただろうから。

 そして、サビーネの方も侯爵に父の姿を重ねて見つめている。ただ、一人の肉親。時に甘やかし、時に導いてくれる肉親の存在は、多数の修道女に囲まれ、大事にされていてもな埋められなかった心の空白を埋めてくれるのに充分であった。
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