仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
第一章 王子様は甘やかに誘う
歓喜に打ち震える私を見やりながら、社長はキリリとした片眉を跳ねあげた。
彼女のトレードマークでもある赤い眼鏡のブリッジを、右手の中指で押し上げる。

「あなた意外と行動力あるじゃない。まあ今回はあなたの熱意を認めて、この仕事を譲るわ。仕事内容を確認していくから、ここに座りなさい」

そう言って社長の隣の椅子を引いてくれた。

「はい、失礼します」

私は緩みそうになる頬を引き締めて、クライアントの斜め前に着席した。


「琴石さん、改めて宜しくね。僕は常盤 慧(ときわ けい)。『エテルニタ・リゾート』取締役、それからブライダルジュエリー『Eternita(エテルニタ)』の代表取締役社長を務めています」

容姿端麗な甘いマスクの青年――常盤慧さんは名刺を取り出し、こちらに差し出す。

「エテルニタ、ですか?」

私は驚きに目を見開く。

世界で名を轟かせる企業の取締役の前に、無鉄砲にも飛び出していたなんて……!

あまりにも有名過ぎるホテルとジュエラーの名前に、名刺を受け取る手が小刻みに震えた。

「ホテル・エテルニタは知ってるかな? 観光地やリゾート地にはよくあるから」
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