ほろ甘くささやいて
 仕事帰りの一杯立ち飲み屋。
 そこにたまたま居合わせた同期の男と一杯やることになった。

「ブッファ~。
 残業帰りの一杯は最高ですなぁ、珠樹クン」

「お前なあ…
 うちの課長(オッサン)と同じこと言ってんぞ。
 ガツガツ仕事ばっかりしやがって。
 …世間はさ、バレンタインだとかでハシャいでるのにな」

 呆れ顔でコップをカウンターに置いたのは、同期の珠樹(たまき)。
 チャラチャラ遊んでいるくせに、いつも私より一つ上の営業成績を上げてくるフトドキな奴だ。

 軽く頭を小突かれながらも、私はフンと鼻を鳴らした。

「はっ、男になんか媚び売って何になるのさ。
 仕事の方が、断然面白いもんね」
「綿貫サンは相変わらずだな。男よりも仕事ってか」

「とーぜん。
 仕事は私を裏切らないもん。努力には、必ず結果が着いてくる!
 大体ね、バレンタインなぞ菓子屋の陰謀。そんなモノに踊らされるほど、私は暇じゃありませんて」

「ふぅん。
 渡す相手がいないだけ、じゃなくて?」

 うぐっ。
 こいつめ、気にしていることを…

 拗ねて唇を尖らせ、コップの日本酒をちぴっと舐める。
 
 「…どうせ
 私にチョコレートなんて貰って喜ぶ奴はいないですよーだ」

 自分が皆に何て言われてるかくらい知っている。
 キツい女だ、お局様だ…
 何さ、困った時にはみんな頼ってくる癖に。
 
 と、彼がポツリと言った。

「俺は_欲しいな」

「は?」

「欲しい、って言ったんだよ。
綿貫サンのチョコレート」

 ぶーーっ。
 私は思わず、口にしたお酒を吹き出した。

「ばっ、な、何言ってんの。
 あんたなんか、後輩ちゃんだの、どこぞのネーチャンから山ほど貰うんでしょうがっ」

 全く。
 からかうのも大概にして欲しい。
 ただでさえ、無駄に色気を振り撒いている男が。
 微酔いの艷っぽい表情で、甘い声して言うもんだから…

 ちょっと本気にしちゃうじゃないか。

 と、
「ジョーダンじゃないよ、
…見たいんだ」

 気がつけば、いつの間にか彼のお顔が近づいている。

 ひっ!

 内心慌てふためきつつも何とか平静を装って、私はやっと尋ね返した。
「な、何を…」

 ピンクに頬を染めたまま、彼は悪戯っぽく微笑んだ。

「綿貫サンの、女の顔」


 …負けました。


ーおわりー


 
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