秘密の会議は土曜日に
1章

1 システムトラブルと最悪の出逢い

にーよんさんろくご。


24/365。これは私の大嫌いな言葉のひとつ。24時間、365日の稼働を余儀無くされるシステムに使われる言葉だ。


要は「一秒たりとも止めたら承知しねーぞ」という脅しである……とシステムエンジニアの田中理緒は考える。



こういったシステムが止まると一秒毎に何億という損害が出るとか、訴訟を起こされるとか、人知れず誰かが会社を去ることになるとか……すべて嘘のような本当の話だ。




そんな大事なシステムが、今朝止まった。


悪いことにそれは一番の大口クライアント企業のシステムであり、さらに悪いことに先方のプロマネ……プロジェクトマネージャーは鬼畜皇帝と恐れられている。


悪いことは重なるという言葉通り、そのクライアントを担当している先輩は長期の休暇中だった。



「田中さん、代理で謝罪してきて」


「私が行くんですか?もっと肩書きが上の人が行った方が良くないですか?」


ついさっきやっとシステムの復旧を終えたばかりだというのに。


担当外のシステムで分からないことだらけだというのに、課長の指令は情け容赦ない。


「田中さんがトラブルの原因を見つけてくれたんでしょ。

それなら担当の次にこのシステムに詳しいのはもう田中さんだから。ついでに吉澤が休暇中のフォローもお願い」


吉澤というのは休暇中の先輩の名前だ。吉澤さんは結婚休暇と有給を合わせて、二週間もの間不在だった。


何故会社という所は、一つの仕事を終えた社員にさらに多くの仕事を与えるようにできているんだろう?


そんな愚痴を心に押し込めて先方にアポイントを取り付け、ロッカーにしまってある野暮ったい黒のスーツに着替える。


なお、社員は大抵同じように謝罪用のスーツを会社に常備しており、通称は喪服と呼ばれている。


真っ黒い服に包まれて、気分はますます憂鬱になるばかりだ。
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