秘密の会議は土曜日に
「どうか、どうか命だけはご勘弁をっ!」


優しそうな物腰に見えるけれど、なにせ社内で誰もが噂する恐ろしい鬼なんだから。後でどんな恐ろしい目に合わされるかわからない。


「命だけはって。人殺しみたいに言わなくても。そんなに俺が怖いですか?」


「いえ、ここここ怖いなんてとんでもない。御恩情に感謝たてまつりまくりでございやす。」


慌てすぎて言葉遣いがおかしくなってしまった。



「それなら、できれば目を見て話して下さいね」



この人は私に石になれと言ってるの!?そういうことなの?


怖いけれど、この人を怒らせたらどうなるかわからないので意を決して顔を再び上げる。


すると『にっこり』と聞こえてきそうなほど晴れ晴れとした笑顔をしていた。何を考えてそんなに笑っているのかわからないけど、それだけで石化の作用は倍増する。


「今日は大変助かりました。田中さんのお陰で社内の悪行を発見し、手を打つことができたんで。

でも不愉快な思いをさせて申し訳ございませんでした。二度とこのようなことがないよう対策いたします。」



……なるほど。私に他言するなと念を押しているんだ。


「いえっ。私は何も見てませんし聞いてませんっ。ましてや不愉快な思いなどとんでもない。

今日の出来事は確実に記憶から消去しますから、誰にも言うことはありません。

っていうかもう忘れました!……あれ?私はどうしてこんな素敵なオフィスにいるのかな。わからないや。急いで会社に戻らないと!」


鞄をつかんで逃げるように会議室を出ると、背後から


「忘れてもらっても困るけど」


と笑いを含んだ声が聞こえてくる。


「五日後の資料提出については忘れておりませんからぁ!」


精一杯でそれだけ言って、とにかく急いで逃げた。


鬼畜皇帝の顔があんなに格好いいだなんて反則だ。鬼らしく丸っこい鼻とか、ぶっとい眉とか、ギョロっとした目をしていてくれたらどんなに良かったか。



顔の良い男の人なんて、私はこの世の中で何よりも苦手なんだから。
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