秘密の会議は土曜日に
さすがにこんな話を皇帝閣下にするわけにいかないので「ぐへへ」と笑って誤魔化す。



「私みたいな者は、何かの役に立たないと存在してる意味が無いから」


もし私がそのままの自分を受け入れて貰えるような……誰かの特別になれるような人なら良かったけど、私は絶対にそんな人間じゃないから。


「いつでもどんな場所でもそうだったので、閣下には何の役に立つのかを必死で考えたつもりなのですが。

今回は見事にハズレたのであります。大変失礼いたしました。」


深く深く頭を下げると、頭上で小さなため息が聞こえた。


「田中さんが仕事で無理し過ぎるのも、きっと今の話が理由なんでしょうね。


先日うちの会社に来てくれた時の事ですけど、田中さんは実は担当者の代理だったんですよね。」


「はい……担当の吉澤は来週末には復帰予定です。」


「それでもあなたは、『詳細は担当が戻ってから』とか『担当外なので答えられない』とか、逃げの言葉は何も言わなかった。

しかも弊社の担当が劣悪な態度だったにも関わらず、全部自分で何とかしようとしていた。

その姿勢には胸を打たれましたが、でも田中さんは頑張り過ぎです。」


閣下は私の長い前髪をかき上げた。普段は人の視線を避けるために前に垂らして顔を隠しているので、そうされるとひどく落ち着かない。


「役に立たないと自分に意味がないなどと考えるのは愚かなことですから、今すぐやめてください。」


そう言われても、私は何かの役に立つ以外に自分の存在を許す術を知らないけれど……


遮る物の無くなった視界から顔を覗き込まれると、思考が停止する。閣下の真顔は心臓すら停止しかねない破壊力なのだ。


「言っておきますが、これは命令です。必ず遂行するように。」


「!?」


「返事は?」


「ひっ……、はい。」


「よろしい。くれぐれも宜しくお願いします。」


皇帝閣下は、非常に勝ち気な笑顔を向けながら私に釘を刺した。
< 20 / 147 >

この作品をシェア

pagetop