秘密の会議は土曜日に
常駐先の私の席を探すと、鴻上くんと背中合わせの位置ににあった。


「おはよー。昨日あんなに食って腹痛くなんなかったか?」


「うぷ、……今も気持ち悪い。」


「だから言ったろ、ばっかだなー。」



ちなみに閣下の席は高層階のフロアにあり、文字通り雲の上の人だ。閣下は会社で会うかもなんて言ってたけど、立場が違いすぎて全くそんな気がしない。



……と思いきや。



閣下がこの部屋に急に現れたので、心臓が止まるかと思った。


「鴻上、詳細設計の修正の件だけど。今話せる?」


「ういっす。」



閣下は昨日と同じようなスーツ姿で、眼鏡をかけていた。シャープな顔立ちによく似合う細いフレーム。眼鏡をかけると甘い目元のインパクトが減るのかと思いきや、とんでもない。

バランスの取れた目鼻立ちが強調されて、普段より妖しく色っぽい感じ。鑑賞物のようにずっと眺めていたいほど……。


私に気が付いた閣下が振り返ったので、緊張して姿勢を正す。


「田中さん、これからよろしくお願いします。何かあればこの鴻上に相談してください。彼がこのグループのリーダーなんで。」


「は、はいっ……!」



『理緒』じゃなくて『田中さん』。それにとても丁寧で親切な口調。


ドキドキした私とは対照的な、事務的な言葉。


プロマネがいちスタッフに話しかけてくれるだけありがたい筈なのに、冷や水でも浴びたみたいに体が冷える。


……私は何を期待していたの?


土曜の打ち合わせの延長のように閣下と話そうとした自分が恥ずかしい。一線を引くような事務的な態度をとられて、自分がどれだけ思い上がってたのか気が付いた。



すぐにこの場を離れた閣下の背中を見送ると、鴻上くんがジロッと白い目で私を見ている。
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