エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「紗凪」

突然後方から響いた低く重みのある声。反射的に後方を振り返った私の目に飛び込んで来たのは、あまりに予想外の人物で目を見開いた。

「俺の彼女に何か用か? 用があるならば代わりに俺が聞くが」

チャラ男の腕を撥ね除けて、スッと自分の身体へと私を引き寄せた。

鼻を掠めるシトラスの匂いと密着した身体から伝わってくる体温にトクンと鼓動が跳ね上がった。思わず顔を見上げて見れば冷たく鋭い眼光を向けてチャラ男を威嚇しているように見える。

「ちっ。彼氏持ちかよ」

その人物から放たれるオーラに根負けしたらしいチャラ男がすぐに白旗を上げてその場を立ち去ろうと私に背を向けて歩き出した。

「手の掛かる女だな、まったく」

その様子を見て私の身体を解放したその人物が怪訝そうな顔をしてそうつぶやいた。

「なんだかすみません。ありがとう、ございました…」

まさかこの人物に向かって私がお礼の言葉を述べるなんて誰が想像できただろうか。
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