守りたい人【完】(番外編完)
ぶっきらぼうだけど優しいその言葉に、胸が温かくなる。

そういう所、好きだなと思う。


「人、来てくれますかね」

「どうだろうな」

「来たら、きっと好きになりますよ。ここの事」


風に揺れる木々を見つめて、そう言う。

鮮やかに咲いた花が、世界を美しく彩る。


「不思議ですね。ここの事、大嫌いだったはずなのに」


何もない、ここが嫌いだった。

あるのは、見渡す限りの田んぼと山。

何をするにも不便で、現代社会から取り残されたような場所。

近すぎる近所付き合いも、噂話も、全部嫌いだった。


それなのに、今ではここが好きになった。


季節ごとに咲く花や、どこまでも続く広い空を見ているだけで穏やかな気持ちになる。

採れたての野菜を持ってきてくれたり、顔を見るだけで気さくに話しかけてくれる近所の人の笑顔を見ると嬉しくなる。

昔から変わらない本当の意味での大切なものが、ここでは当たり前のように守られている。

< 160 / 456 >

この作品をシェア

pagetop