守りたい人【完】(番外編完)

帰らない背中

「なんや、志穂ちゃん、ご飯食べてないんかい」


体育館の壁に体を預けながら座っていた私を上から見つめて、鍛冶君が溜息を吐きながらそう言った。

その言葉に苦笑いを浮かべながら、食べる? と聞いて、横に置いてあった、おにぎりを手渡す。

それでも、鍛冶君がそれを受け取るはずもなく、大きな溜息を吐きながら隣に腰かけた。


「心配なんは分かるけど、ちゃんと食べて休まな、体壊してしまうで」

「――」

「ほら、昼飯もろくに食ってなかったやろ」


何も言わずに俯く私に、鍛冶君がおにぎりを手渡してくれる。

それを重たい体で受け取り、じっと見つめる。


お腹なんて全く空いていなかった。

時計の針が進む度に、例えようのない不安が襲ってくるから。


耳を澄ませば聞こえるのは、また降り出した雨の音。

窓を打ち付けて、不気味な音を体育館に響かせていた。


チラリと時計を見れば、もう夜の8時を過ぎている。

辺りはすっかり暗くなっているのに、待ちわびている人の帰りは、未だにない。

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