守りたい人【完】(番外編完)
それでも、私の思考回路は正常には働かなかった。

抱きしめられた、逞しい腕。

意地悪そうに歪められた唇。

真っ直ぐに私を見つめる、その黒目がちな瞳。

そのすべてが、クルクル回る世界では意味を成す。


「聞いてんのか」


私を抱きしめたまま、顔を覗かれたけど言葉は出てこなかった。

この腕の暖かさの中で思い出すのは、大好きだった彼の温もり。

輝いていた記憶から消えていくのに、微笑みばかりが浮かんでくる。

大好きだと言って抱きしめてキスをしてくれた、あの日々が蘇ってくる。


その瞬間、寂しくて、悲しくて、辛くて、悔しくて、消えたくなった。

もう戻らない日々が、私の心を壊していく。


私を抱きしめて。

私の側にいて。

私を一人にしないで――…。


悲しみの渦が一気に押し寄せてきて、胸が引き裂かれそうになった。

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