バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
魚心あれば水心
 そしてサロンの騒動から約一時間後、私はカチコチに緊張しながら、広々とした副社長室の応接セットのソファーに腰掛けていた。

 大きなデスクも、応接コーナーも、書棚も、すべて明るい色合いの天然木材で統一されている。

 この綺麗な木目柄って、ひょっとして全部ナラ材かな? たしか今は国内の供給が不足してるから、価格がものすごく高騰してるんだよね。

 あちこちに配置されている観葉植物のグリーンと、窓の縦型ブラインドのシルバーグレーの色合いが、落ち着きのある洗練された空間を作り出しているけど、明らかに私には場違いな高級感が漂っていて、心細さが半端ない。

 こんな最高級本革ソファーに座っているのに、なんとも居心地が悪いったら。

「なにか飲むか?」

 おずおずと室内を見回す私に、真向かいのアームチェアーに座っているこの部屋の主が話しかけてきた。

「い、いえ副社長。どうぞおかまいなく」

 私は大げさなほどブンブン首を横に振って遠慮した。

 こんな場所で緊張しながらお茶を頂いたって、体のどこに入ったんだかわかりゃしない。

「まずは謝罪させてくれ。巻き込んでしまって、悪かった」

 そう言いながら副社長が丁寧に頭を下げるのを見て、私はひたすら恐縮する。
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