浮気の定理-Answer-
水落の場合①

あれは会社の帰り道だった。


知らない男に後ろから声をかけられたのだ。


誰だ?こいつ……


そう警戒したのを覚えてる。


「はじめまして、木下と申します」


そう言って手渡された名刺には、レストランらしき名前。


その下には確かに木下雅人と書かれている。


何かの勧誘か?と訝しげに見た俺に、水落さんですよね?と念を押された。


――俺のこと、知ってる?


ますます警戒しながら、木下と名乗った男を見ると、そいつはにっこりと微笑んだ。


「いつもお世話になってます、木下桃子の夫なんですが」


「……っ!」


――あの木下の旦那?いったい俺になんの用なんだ?


素性はわかったものの、俺に接触してきた意味がわからない。


「どうも……その木下さんが、俺になにか?」


「ちょっと、折り入ってお話ししたいことがあって……」


「話したいこと?」


「えぇ、これからお時間とれませんか?

あなたにとっても悪い話じゃないと思うんです」


「はぁ……」


なんとも間抜けな返事をしながら、俺は頭の中で瞬時に考えた。
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