優しい雨　～一年後の再会～
演劇部　部室2
　数日後、出来あがったシナリオを演劇部の部室に持っていくと、部長の蒼だけが椅子に座ってメモを見ながら考え事をしていた。
　シナリオを渡して受け取ってもらうと話題がなく気まずい静寂。
「羽野くんは演じないんですね」
　とっさに桜から聞いたことを思い出し口にする。
「えぇ、舞台全体や演出の方に興味を持っているので」
　そう言った彼の瞳は智博と同じ真剣な眼差しが浮かんでいるのが見えた。
　机の上に広げられているノートには舞台となる体育館の壇上が描かれており、無数のメモが書きこまれていた。
　桜から聞いた時は、舞台に立たないなんて顔もいいのにもったいない…とチラリと頭をよぎったのだが、それを見ると妙に納得してしまった。
「智博が劇団をやめたの、聞いてますか？」
「えぇ…以前に……」
　唐突な質問に考えることなく素直に口に出してしまった言葉に、蒼は意味ありげな微笑を浮かべた。
　彼のその表情で単純な誘導に引っかかったのだと気付いた。
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