たった一つの勘違いなら。
2章 困惑の晩秋
指定されたホテルのラウンジに早めに赴き、待ち合わせだと告げてゆったりとした座席に座った。

西山さんとのことを他言しないようにという話かもしれないな。ファン心理が暴走して逆に嫌がらせに走るなんてことを心配されてもしかたないだろう。

もちろんそんなつもりはカケラもない。信じてもらえるといいけれど。


……嫌われたんだろうな。

この期に及んで私はまだ自分がかわいいらしく、ソファに沈み込んでそんなことを思っていた。



「橋本さん。待たせちゃったね、ごめんね」

ぼーっとしていて、声を掛けられるまで富樫課長がいらっしゃったことに気づかなかった。

私の向かいに座り、メニューも見ずにウエイターさんに手をあげる。一つ一つの仕草が様になるのは容姿のせいかお育ちなのか。

とつい見ていたら、ふと私の様子に気づいたように聞かれる。

「まだ注文してない?」

「はい、私も今来たばかりで」

というよりメニューを見るのも忘れていた、と思いながらダージリンティーをお願いした。

< 22 / 179 >

この作品をシェア

pagetop