素直になれない
優しい腕
別に、手土産につられたわけじゃない。


毎週日曜日の午後に我が家に顔を出す黒縁眼鏡の大学生は、医学部に通いながらバイト三昧という苦学生で。


襟元の伸びきったシャツを気にするような事もなかったし、たまには寝癖をつけたままくることもあった。


野暮ったいという第一印象はしばらく変わることはなかった。


それでも彼の人柄は温かく穏やかで、好ましい人物だということは、私達の家族からも好かれていたことで分かる。


弟の家庭教師という立場から、恋心を抱く相手へと変わったのはいつだったろう。


毎週日曜日が楽しみになって、彼が来るのを心待ちにしている自分がいて……。


弟の気分転換にと遊びに誘う時、彼は必ず私も誘ってくれた。


それがいつしか2人きりで出かけることが増えて、気付けばデートをしているような感じで。


だから、錯覚していた。


彼にとって私は特別な存在で、もしかしたら彼も私を……。


とんだ勘違い女だったわけだけど。


今思い返してみれば、彼は懐いてくる私を無下にすることもできず仕方なく付き合ってくれていただけなんだと分かる。


家庭教師を止めて、勉強に専念するようになった彼からの連絡が減り、会うこともなくなって。

いつしか連絡すらも来なくなった。



< 31 / 61 >

この作品をシェア

pagetop