輪廻ノ空-新選組異聞-

真実

「では、行って参ります」

軽い旅装を整えて、まずは新選組の大坂の屯所に出向いて、そこで今回の偵察の為、わたしは女装に、伊木さんは商人の装束に身を改める。

「用心を怠らず、つなぎもぬかりなく、何より無駄死にしねぇよう頼んだぞ」

近藤さん、土方さんが見送りに出てきて、土方さんが口火を切って言った。

「分かっています。万事、うまくいくよう細心の注意を払って臨みます」

わたしは深々と頷いて答えた。

「任しとくんなはれ。かならず役儀、全うして帰隊しますよって」

伊木さんも答える。

「蘭丸、おめぇは特にヘマをしねぇようにな?」

「分かっています」

役目の重みがのしかかってくるけど…頑張らなきゃ。
絶対おなごだとバレてはいけない。女の格好してても、男なんだから。そして何より…味方ではなく、密偵として新選組に入っている伊木さんを……うまく利用して過激派浪士の情報を掴み、そして伊木さんを…密偵だとあばく。

「須藤くん、熱があるのではないか?」

ぎくっ。

近藤さんがわたしの顔を覗き込んで。

「は……。問題ありません!」

「こいつ阿呆なんですわぁ」

伊木さんが隣で口を開いた。

「ちょっ、八郎さん!」

「休暇なんやから休めばええのにから、昨日は朝に沖田はんと帰隊した後すぐから、一日中道場で鬼みたいに稽古してましたわ」

「稽古のし過ぎで発熱たぁ……餓鬼か!」

土方さんが呆れた顔をして、次には笑い出して。

「柔術ばっかりだったじゃないですか!激しくありません」

肘で伊木さんを小突いて。

じっとしてると…沖田さんは隊務に戻ったのに…わたしは色々と思い出してしまって…顔がゆるむから…忘れて稽古の没頭したかった。

でもやっぱり、今回の役目に役立つように、切り合いの稽古ではなく、柔術を。

室内で、相手が突然脇においた刀で切り掛かってきたら、どう切り返すのかとか…。

一心不乱に稽古した。伊木さんは見てるだけで余裕そうだったけど、茶化される謂れはない!

ったく!

「いててて」

「ははっ、夫婦としては良い組合せだったようだな」

近藤さんは笑って言うと、わたし達を送り出すべく促して門を出た。
< 101 / 297 >

この作品をシェア

pagetop