輪廻ノ空-新選組異聞-

再出発


雨がふってた。

ザーザー。

店の人が貸してくれた傘は、一本。降りだしたばっかりで、他は全部出払ったばかり…とかで。

「私が持ちます」

すっかり体育会系のノリに馴染んでいるのは、元から武道をしてたからだけど…

「いいですよ。私の方が身の丈が高い」

沖田さんはあんまりそういう事に頓着しないみたい。

「人生初の相合傘!」

と、心の中で言ったら、自分で言ったのにドキドキしてきた。

「じゃあ…お願いします」

傘を渡した手と手が触れた。

「わわっ」

慌てて離したら、傘が沖田さんの頭に被さるように落ちた。

「まったく、気を付けて下さい」

「沖田さんだって離したのに!」

抗議しつつも、意識し過ぎで顔が熱い。お酒だけのせいじゃないよ、これ。

「あなたの声に驚いたんです」

答えた沖田さんの顔は暗くて、提灯の光だけじゃ良く見えない。

島原から屯所まで、ほぼ一直線に北上するんだけど…時々触れる体にドキドキドキして会話が出来ないまま。


「さて、では…」

屯所に着いて、傘や肩についた滴を払いながら沖田さんは言った。

「あなたはゆっくり寝て下さい」

言われて私は静まり返る一番隊の室に入った。門番以外は無人で、本当に静かで。

雨の音がいやに大きく耳に入った。
< 30 / 297 >

この作品をシェア

pagetop