BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
3.クライム
 祥真がカウンセリングに来た日から約一週間が経った。

 その日、月穂は院内を歩いていた。そこに、甲高い声が聞こえてくる。

「あっ。大和さーん! お久しぶりです~」
「須田さん。お疲れ様です」

 乃々とは元々しょっちゅう会うわけではない。さらに月穂は今、病院へ出勤するのは週に二日となれば、久々に顔を合わせることになる。

 乃々は相変わらず長い睫毛を瞬かせ、甘えるような声を出す。

「日によって二箇所に通うって大変じゃないですかあ? あっちには週三日通ってるんでしたっけ? もう会いました?」
「ええと……」
「隼さん! あ、あと夕貴さんも」

 月穂の言葉を待ちきれなかったようで、乃々は言下に重ねて言った。

「ああ。会いましたけど、仕事以外では特に……」

 月穂はそこまで答え、一点を見つめたまま止まってしまった。

 今日まで、祥真のことはなるべく思い出さないようにしていた。裏を返せば、意識していなければ自然と祥真のことを考えているということだ。

(あの日、手なんか繋いだりしたから)

 一週間経った今でも、祥真の手の感触を思い出せる。

 駅のホームで助けてくれたあのあとは、電車に乗り込むと同時にどちらからともなく手は放した。けれど、混み合う車内ではずっと彼の身体に腕が触れていた。

「大和さん?」
「えっ? あ! ごめんなさい。その、今日はまだ頭切り替えられてないみたいで」

 乃々に呼びかけられ、慌ててそれらしい言い訳を口にする。

 祥真が手を繋いできたのは、パニックになりかけていた自分を落ち着かせようと考えてしてくれたことだとは思う。けれど、乃々に対して罪悪感を抱いてしまう。

「やっぱり、そうそう会えないですよねえ。大体、出社してきたって、ほとんど機内ですもんね。あ。じゃあ、私こっちなんで」
「あ、はい」

 月穂は乃々が別の方向へ去っていくのを見送り、ひとつ息を吐いた。
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