ひょっとして…から始まる恋は
校舎が見える所まで来ると自然と足が止まった。

花見会の夜に藤田君と眺めた桜の木を見つめ、もう一度三階の教室を見直す。


朝と同じように胸の中には懐かしい日々が蘇っていた。
だけど切なくもなく、淡々と幸せだったな…と思えた。


暫く眺め続けた後で家へ帰ろうと踏み出した。
その目の前に人が飛び出すように出て来て、ビクッと体を仰け反らす。


「……ま、間に合った…」


上半身を項垂れ、大きく背中を上下させている男性。
そのスーツの色には見覚えがあり、私は緩くカーブする背中を見つめてパチクリと目を瞬かせた。


「ひょっとしてと思うけど……久保田君?」


どうしたの?と顔を覗き込もうとしたら、すくっと背筋を伸ばされる。
上体を起こした彼の呼吸は乱れきっていて、頬も赤く蒸気しているから、大丈夫?と心配した。


「……だ…大丈夫。それよりも俺、保科さんに伝えそびれてたことがあって……」


二次会の幹事をすっぽかして来たんだと言いだす彼に慌て、良かったの!?と目を丸くする。


「いいんだ。靖には断って来たから」


若干呼吸が整ってきたような彼は、何度か深呼吸を繰り返した。


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