君のことは一ミリたりとも【完】
4 見透かす男



訳も分からない高校の同級生に突然キスされた。しかも生瀬さんとの電話の後に。


「……」


朝目覚めてから思う、駄目だ何日経ってもあの苛立ちが忘れられない。
何故唐沢はいきなりキスなんかしてきたんだろう。そんなに生瀬さんの電話だけで泣く私が面白かった?


『河田さんの泣き顔、好きなのかも』


その直後、彼の口から飛び出したセリフを思い出し更に腹を立てる。
泣き顔が好きってなに? そんなに私が苦しんでいるのが好きなの? どうだけ性悪なの。

そしてこんなのでいちいち動揺してる自分にも腹が立ってくる。


「はぁ〜、本当に最悪……」


唐沢に弱みを握られてから嫌なこと続きだ。早くこの悪循環から抜け出さないと。
それにあんな奴のために頭を悩ませている時間が無駄で仕方がない。

取り敢えず、私は今出来ることをやらなければ。生瀬さんとのことを忘れるんだ。

忘れられる? 本当に?


「……」


忘れたいと思うほどに彼との思い出が色濃く蘇ってきて、私はその回想から抜け出せなくなってしまった。
唐沢に不倫であることを指摘された。分かってる、そんなのずっと前から。そこの部分においては唐沢の方が正論だった。

だけどその間違いを認めてしまうぐらい、私は彼に本気だったし彼だってそうだと思っていた。
誰かに批判されようが、お互いにそう思っているならその関係でもいいと思っていた。

なのに終わりは突然すぎて、未だに頭が整理出来ていない。


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