クールな社長の溺甘プロポーズ
◆4.距離は少しずつ




4月になり、オフィスの窓から見える遠くの公園には、満開の桜が咲いている。

あたたかな日、青空の下に揺れるピンク色の桜。

新年度、新生活。みんなが心踊る季節……だが。



「販促用POPがまだ店舗に届いてないって!澤口さんなにか聞いてます!?」

「あっ、はい!さっき連絡きて梱包ミスで出荷遅れてるそうです!各店に遅れる旨メールお願いします!」

「ちょっと、店舗から不良品のクレームきてるよ。澤口対応頼むわー」

「えぇ!?」



今日も私がいるオフィスは、ドタバタと慌ただしい。


そう。天気がよかろうと桜が咲こうと関係なく、仕事に追われている毎日。

ましてやうちのブランドは今年は新入社員もおらず、新鮮さのかけらもないのだ。





「はー……疲れた」



午後すぎ、ようやく仕事がひと段落つき、力尽きた私はぐったりとデスクに突っ伏していた。



「澤口、お疲れ様。はいコーヒー」



その声に顔をあげれば、コーヒーの入ったカップをふたつ手にした柳原チーフの姿。

先ほどまでのオフィス内のバタバタを見ていたのだろう。私の疲れ切った顔を見て苦笑いをこぼした。



「すみません、ありがとうございます……」



力なく返事をすると、体を起こし、コーヒーを受け取った。



オフィスのコーヒーマシンで淹れた、濃い目のコーヒー。

そこに砂糖とミルクをすこしだけ淹れて飲めば、ほっと体が安らぐのを感じた。


< 62 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop