会社に着いてすぐ、私は一事務員の顔でデスクで既に仕事に取り掛かっていた平嶋課長の前に立った。

「昨日は申し訳ありませんでした。今日は二日分働きます」

張り切ってそう言うと、平嶋課長は心配そうに私を見上げる。

「もう大丈夫なのか?」

「はい。すっかり」

凱莉さんが無理をさせた身体以外に、体調不良なところな全くない。

「そうか、よかった。病み上がりなんだから今日は早く帰れよ?俺も時間合わせるから」

そう言われて私は驚きで目を見開いた。

え?

この人は……なにを言ってるの?

「どうした?」

「……どうしたもなにも……平嶋課長こそどうしたんですか?」

「なにがだ?」

「いえ……何でもないです」

私はのろのろと平嶋課長のデスクを去り、自分のデスクに戻ってパソコンを立ち上げる。

部下を心配するのは平嶋課長として当然のことかも知れないけど。

俺も時間を合わせるというのは、凱莉さんとしての言葉なんじゃないだろうか。

今まで私からプライベート用の言葉でけしかけたことはあったにしても、凱莉さんからこんな風に言葉を掛けられたことはなかった。

絶対に公私混同なんてせずに、冷たいほどきっちりと線引きする人だと思っていたのに。

本当はそうじゃないんだろうか。

立ちあがったパソコンの画面をぼんやりと見ていると、隣で私の様子を見ていた瑠衣ちゃんが私に声を掛けてきた。

「平嶋課長、もう隠したり照れたりするのはやめたんでしょうね。まあ、クールなくせして駄々洩れだから仕方ないんでしょうけど」

意味あり気な言葉に引っかかって、私は「どういうこと?」と瑠衣ちゃんに聞き返した。