ただいま冷徹上司を調・教・中!
あれ以来、無理やり脅したというのに、平嶋課長はご丁寧に私の言葉を忠実に守ってくれている。

誰に何を言われても、何を聞かれても、平嶋課長は「噂は事実だ」と言って周囲を突っぱねるのだ。

女の嫉妬が怖いことを平嶋課長は十分に知っているらしく、必ず最後には一言添えてくれる。

「俺は職場でのトラブルは好まない。もちろん久瀬の周りが騒々しくなることも含めてだ。キミたちが何を言っても何をしても事実が変わるわけではない。俺の言葉の意味を十分に理解した立ち振る舞いを頼むよ」

妬みや嫉妬が形になって現れる前に、平嶋課長はちゃんと制御をかけてくれていた。

それを知った時は、不覚にもキュンとしてしまった反面、気が咎めてしまった。

自分の意地と保身しか考えていない浅い私と、いくら弱みを握られたとはいえ、くだらない私の取り引きをのみ、その約束と私自身を守ってくれている平嶋課長。

その差はあまりにも大きく、自己嫌悪に陥ってしまう。

けれど梨央が平嶋課長に私との関係を聞き出そうとしているのを瑠衣ちゃんが目撃したと聞いた時は、やっぱりこの取り引きをしておいて良かったと心から思った。

「平嶋課長、本当に千尋さんのお願いを叶えるためだけに噂を肯定してるんですかね?」

夕方、事務員三人しかいないデスクで瑠衣ちゃんがポソリと呟くと、その発言に沙月さんも小声で食いつく。

「私もそれは思ってた。いくら事情を説明して可哀想だって思ったにしても、ちょっと協力的すぎるわよね。もしかして……平嶋課長は千尋ちゃんのこと……」

口元に手を当てた二人の声にならない叫びに、私一人だけ冷静に「そんなわけないから」と乾いた笑いを漏らす。

確かに驚くほど協力的ではあるけれど、平嶋課長にとってあの出来事はそれほどまでしても漏らされたくないことだったに違いない。
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