シンデレラのドレスに祈りを、願いを。
prologue

☆butterfly kiss

*―*―*
☆☆☆


住居スペースから店舗に出て、看板を出す。ビルの間から見える空は青く、高い。襟に忍び込む冷たい空気に首をすくめた。


「悠斗、いってらっしゃい。あと夕方からお店の手伝い、お願いね」
「ああ」


あのひとと同じ笑顔で玄関を出て行く悠斗は私の一人息子だ。彼の戸籍に父親はいない。

公立高校の3年生、17歳。来月で18歳になる。私が産んだ子には間違いのだけれど、顔も背格好も父親そっくりだ。きっとあのひとが悠斗を見たら、間違いなく驚くだろう。僕の生き写しなの?、って。

ひとりで悠斗を育てるのは大変だった。悠斗が熱を出しても見てくれる両親はいないし、保育園も今ほど寛容ではなかった。数少ない友人を頼り、職場で嫌みを言われながらも耐えてきた。それでも頑張れたのは、悠斗の存在と自分の夢。

ひとつはミルクティがおいしいカフェを出すこと。
頑張った甲斐もあり、5年前に店を出すことができた。小さいながらもお客さんの入りは順調で、初期投資にかけた借金も計画通り返済できている。

ミルクティを推しにはしているけれど、それだけでは集客は厳しいから、コーヒーやジュース、軽食も出している。飾りすぎない素朴な雰囲気も受けている。


“はむはむカフェ、ひまわりの種入りナッツミルクティはこちらです”
 

あのひとが好きなミルクティ。
もうすぐ、あのひとがやってくる。


☆☆☆
*―*―*

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