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扉についた鈴が楽しげに甲高い音を鳴らす。
いらっしゃいませ、そう声を出してお客様をお迎えする。ワンプレートの日替わりランチは限定30食。


「こんにちは、早百合さん。ランチいい?」
「いいわよ」


目にかかる長めの前髪をかきあげてカウンターに座る悠季くん、今年で35歳だ。まだ10時前だというのにランチを注文する。

また朝ごはん食べてないんだろうな、と思いながらカウンターに入る。彼はいまだに独身。不摂生が心配だ。モーニング用に落としておいたアイスコーヒーを注いで彼に出す。ミルクティはまだあげない。最後のお楽しみだから。

メインのチキン香草グリルをオーブンに投入して副菜をプレートに盛り付ける。すると客席の方から煙が漂ってきた。


「悠季くん。お店は禁煙」
「僕しかいないんだし、大目に見て?」
「だーめ。もう油断も隙もないんだから」


私はカウンターから出て客席に回る。そして悠季くんの隣に立ち、口元から煙草を取り上げた。

その手首をつかまれ、ぐいと引き寄せられる。
ちゅ。触れるだけのキス。


「悠季くん!」
「口寂しいんだ、許して」
「もう……」
「もう少し、しよ?」
「だ、だめ……」


後頭部を押さえつけられて無理やり前屈みにさせられる。私は手をカウンターと悠季くんの胸に手をやり、上半身を支えた。


私の唇を割り、ねじはいる舌先。熱くて湿ったそれが私の体をぞくりとさせる。
ほろ苦い、キスの味。


「もう。どこで覚えたの、そんなキス」
「早百合さんが教えてくれたんじゃない。忘れたの?」


早百合さん、顔真っ赤、と悠季くんはクスクスと笑う。


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